世界の資本と、日本が持つ課題をどう結ぶか

2026/10/12

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Milken Institute Asia Summit 2026に参加して


                               冨田 欣和|knots associates株式会社
                               2026年10月11日

主催者から招待をいただき、シンガポールで開催されたMilken Institute Asia Summit 2026に参加した。

Milken Instituteは、金融、健康、慈善活動などの分野で、人と資本を結びながら社会課題の解決に取り組む、米国発の非営利・非党派の組織である。Asia Summitは、経営者、投資家、政策担当者、研究者などが集まり、アジアと世界の課題について議論し、新たな協働のきっかけをつくる国際会議だ。

2026年のテーマは「Leading with Intelligence」。AI、投資、健康、地政学など、領域をまたぐ議題が並んだ。会場では参加者の年齢層の若さと、職業や出身地域の多様さも印象に残った。私が接した範囲での印象ではあるが、次の事業や社会の仕組みをつくろうとする人々が、世代や分野を越えて同じ場で話していた。

そこで私が考え続けたのは、世界に蓄積された資本と、解くべき課題を誰がつなぐのかという問いだった。


お金があることと、課題にお金が届くことは違う


世界には投資先を探す人々がいる。一方で、資金を必要とする研究、企業、地域の課題も数多くある。それでも両者は自然には結び付かない。

投資家が判断するには、誰のどんな問題を解くのか、成果をどう確かめるのか、技術や市場のリスクを誰が引き受けるのかを知る必要がある。課題をよく知る患者、研究者、顧客、現場で働く人には、数字だけでは見えない問題が見えている。

「投資する側」と「働く側」を固定的に分けてしまうと、その知識は投資判断に届きにくい。課題を持つ人自身が資本の議論に入り、何を実現すべきかを示す。投資家もその知識を受け取り、共に事業の形を考える。その接点をつくることに大きな可能性がある。

今年の公開プログラムには、AIを支える計算設備や電力、非上場市場、医療研究、湾岸とアジアを結ぶ投資などが並んだ。資本が向かう地域や産業、その運用方法は時代とともに変わっていく。一方で、信頼できる担い手がいるか、リスクと成果を説明できるか、長期にわたり事業を続けられるかという問いは変わらない。


日本の存在感を、どう高めるか

昨年と比べれば、日本人の参加者は増えているように感じた。それでも会場全体を見渡したとき、日本の存在感はまだ十分とは言い難い。これは人数だけの問題ではない。日本が持つ技術や課題意識を、国際的な議論の中で誰が伝え、誰と次の事業をつくっているかという問題でもある。

日本には、研究、製造、医療、高齢化への対応、顧客との長い関係から得た知識がある。日本企業の経営者や次世代の幹部には、こうした場を視察先としてではなく、自社が向き合う課題を持ち込む場所として使ってほしい。海外の人々が何を課題と捉えているかを聞き、自分たちの知識や技術と結び付ける。日本企業は資金の受け手だけでなく、実証の場や技術、資本を提供する側にもなれる。



科学と事業の間を、人が行き来できるか


現地では、米国でニューロサイエンスの博士号を取得し、同分野のスタートアップに投資するVCの責任者と食事を共にした。博士課程の指導教官が先日ノーベル賞を受賞した、という話も彼女から伺った。

私の印象に残ったのは、科学を深く理解する人が、研究室の外で新しい事業と資本を動かしていることだった。研究の知識が技術を見極める力になり、投資や事業の経験が研究成果を社会へ届ける力になる。

日本でも、研究者が起業や投資に関わり、その経験を研究や教育へ持ち帰れるようにしたい。大学、企業、投資家をつなぐ制度に加え、人が役割を行き来できる土壌が必要だと思う。

F1ウィークに重ねる、シンガポールの設計


アジアサミットは、F1シンガポールGPの開催週に重ねて開かれた。シンガポール政府観光局も、国際的なビジネスの議論とスポーツイベントが同じ時期に行われることを、この都市の強みとして位置づけている。

私には、これがシンガポールのシステム的な視点を表しているように見えた。会議とF1を別々の催しとして扱うのではなく、世界の経営者、投資家、企業、メディアが同じ時期に集まる状況をつくる。滞在中の会合や食事、偶然の出会いまで含めて、人が交わる機会が生まれる。こうした設計の価値は、観光客の数だけでは測れない。


現地で出会い、共同で動き出す


シンガポールでは、多くの日本人がそれぞれの業界で知識や信頼関係を築いている。その力を日本企業の海外進出を助ける「人脈」としてだけ捉えるのは惜しい。現地で活動する人たち自身が、課題の発見、事業の設計、投資の判断に加わることで、日本と世界を結ぶ新しい役割を担える。

AIが情報収集や翻訳を助けてくれる時代だからこそ、現地に行き、人と直接話す意味は大きい。相手が何に関心を持ち、どこに迷いや熱意があるのかは、同じ場で対話してこそ分かる。英語は、その出会いから信頼関係を築き、次の行動につなげるための道具だ。

knots associatesは、こうした接続を始めている。日本企業や研究機関が持つ課題を、海外の事業家、研究者、投資家と共に捉え直し、共同プロジェクトや新たな事業の創出へつなげていく。人材育成も、学んで終わる場ではなく、異なる立場の人が実際の課題を持ち寄り、共に動き出す機会にしたい。

世界の資本の流れを遠くから眺めるのではなく、課題を知る人がその議論に飛び込む。日本企業も、海外で活動する日本人も、世界の課題を解く担い手として参加できる。その可能性を強く感じたシンガポールでの時間だった。

開催概要と議題はMilken Institute Asia Summit 2026の公開資料、F1開催週との関係はシンガポール政府観光局の発表を参照した。参加者に関する記述、会食、評価と提案は個人の体験・考察である。

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システムデザインの視点から、研究と実務をつなぐ最新の知見や事例をお届けします。複雑な課題を解くためのヒントを、あなたの組織にも。

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